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人生の根っこ

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最近、身に沁みて感じることがある。
それは「ひとっておもしろい」ということだ。

幼い頃から、両親が共働きの一人っ子。
いわゆる鍵っ子というやつで、夕方帰宅してから夜までの何時間かを一人で過ごしていた。
寂しいと思った記憶はほとんどない。
ではなにをしていたかと言えば、親の蔵書が並ぶ本棚の前に行き、片っぱしから手にとって読んでいた。
内容がわからない小説も多かったけれど、自分の知らない世界に没入できる何時間かが、私にとっては至福の時だったように思う。

そしてそのまま、中学・高校と、小説の山に埋もれて生きてきた。
ジャンルは問わず、SF小説に推理小説、怪奇小説に純文学作品、学園ものから恋愛ものまで、手当たり次第に読んで読んで読みまくった。
読書世界の中で、私は冷凍睡眠から目覚めたり、胸焦がすような恋をしたり、銀行強盗をしたり、殺人事件を解き明かしたり、仲間と甲子園を目指したり、無人島に漂着したり、幕末剣士になったりした。

小説は、私にほんとうにたくさんのものを教えてくれた。感動を、絶望を、恋を、憎悪を、恐怖を、諦めを、希望を、そして言葉にできない様々な感情を。

でも、それはあくまでフィクションでの話。
現実世界に生きる私はちっぽけで平凡でどこにでもいる女の子で、人並み外れた頭脳も、誰もが驚く端正な容貌も、悪を挫く腕力も持っていない。
楽しく、賑やかに過ごしてはきたけれど、いつもどこか隅のほうの無意識の中に、「ちょっとつまんない」という気持ちがあった。
小説の中ではいつも、あんなにたくさんの奇妙奇天烈で魅力的な出来事が起こっているのに、って。

それが変わったのはここ最近のこと。
このWorldShift Osakaに携わって、たくさんの同年代のひとたちと出会って、話してからのこと。

私は遅まきながら、ようやく気付いたのだと思う。
私にとっては「小説」がそうであったように、誰の中にも「人生の根っこ」があることに。
「踊ること」だったり、「音楽」だったり、「歴史の勉強」だったり、「はじめて行ったデパートの屋上」だったり、形はたくさんあるけれど、みんなその「人生の根っこ」を大事に握りしめながら歩いていることに。
そしてその「根っこ」は、ひとりひとりの歩む道筋をしっかりと照らす役割を果たしていることに。

私にとって文章を読み、書くことがそうであるように、「根っこ」はそのひとに「ほかのひとよりも得意なこと、向いていること」をくれる。
それをどうやって、自分の周りのために活かすのか。それを自分に問いかけながら、一歩一歩踏みしめて歩く人にたくさん出会えた。
その瞬間に、わたしのなかの「ちょっとつまんない」は消えて、「ひとっておもしろい」に変わった。

ひとりひとりの「人生の根っこ」。
それを見つめ、守り、活かすこと。
そのことこそ、世界をShiftする小さな、けれどとても大切なステップなのだろうと思う。

WorldShift Osaka広報統括 末広華奈子